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とんび 第8話「父と息子の遺言状」

第8話「父と息子の遺言状」



ヤス(内野聖陽)は、ヤスの父親の息子と名乗る
島野(内倉憲二)から突然、
「父親が会って詫びたいと言っているので、東京に
来てくれないか?」と相談される。
父親とは50年近く音信不通で、
まさか生きているとも思っていなかったヤス。
アキラ(佐藤健)とは
自分からは決して東京には行かないと
約束をしていたが…。




坂本さんに結婚できないと言われた旭。

健介は母がみてくれていました。

「せっかく来たんだから 息抜きでもしてきたら?」

「いいの その息抜きがつぶれちゃったんだから」

「あんた そろそろいい人でもいないの?」

そこにチャイム。
やってきたのは旭で、健介は祖母と外へ。

「 せっかく 旭来たのにな」

「母親来てるって知ってるのに

 これはないんじゃないですか?」

「坂本さん 俺のことバカにしてますよね」

「してません」

「してますよ

 俺のことも 俺の親父のこともバカにしてます」

「してないよ どこがバカに…」

「これ 読んでください」

和尚からもらったふくさの包をさしだしました。

「何よ?」

「俺が一番大事にしてる手紙です」

照雲からたわたされた手紙。

「うちの親父からだよ」

「和尚から?」

「死ぬ前に 成人式が終わったら

 旭に渡してほしいって渡されたんだ。

 成人式が終わったら開けてみてよ」



「これって 私が読んじゃ…」

「いいから読んでください

 俺の親父が どんな人間か

 分かってもらえると思います」

旭へと書いてある手紙。

平成8年

ヤスにかかってきた電話。

「島野昭之と申します」

「島野さん… ですか?」

「市川さんのお父さんの息子です」

「はあ!?」

「突然 こんなお電話申し訳ありません
 
 あの 実は 父…

 あッ 市川さんのお父さんは

 もう長くはないんです」

「えッ 生きとるんですか?」

「死ぬ前に 一目だけ 父に会ってやってくれませんか?」

「わ 私がですか?」

「虫のいいお願いだとは思いますが

 一応 実の父親でもあるわけですし」

「いやいやいや それはねえ…」

「父が どうしても ひと言

 詫びたいと申してまして」

「詫び?」

「はい。最後に どうしても

市川さんに謝りたいんだそうです」

電話をきったあと萩本さんから
声をかけられました。

「どうしたの?島野さんってどっかの会社の人?」

「俺の親父の息子さんらしいです」

「えッ?」

「親父が死にかけとるんで会ってくれって話らしいです」

「はあ…」

「仕事 戻りますわ」

たえ子の店。

「ヤスさんの親父さんって生きてたんすか?」

「生きてたのねえ」

「生きてたのねえって…」

「だって もう何十年?

 50年ちかく音信不通だったんだもの」

「ご 50年!?

 どういういきさつなんですか? それ」

「えっと… やっちゃんのお母さんは

 やっちゃんが生まれて すぐ亡くなっちゃったのよ

 で しばらくは お父さんが

一人でやっちゃんを育ててたのね

 けど 3つか4つかそのくらいのときかなあ

 やっちゃんをやっちゃんのお母さんの

 お兄さん夫婦のとこに預けて

 東京に仕事探しに行ったのよ

 しばらく 帰ってこないなあと思ってたら

 東京で仕事見つけて

 ついでに 新しい奥さんも見つけちゃったみたいで」

「それで ヤスさんは そのままか…」

「戦後のゴタゴタの時期だったからね」

「でも それって 子供捨てたってことじゃないっすか!

 あッ…」

「ねえ ひどい話よねえ」

「ヤスさん どう思ってんのかなあ」

「どうなのかしらねえ」

照雲に相談したヤス。

「別に 会えばいいんじゃないの?」

「お前は そう言うと思ってたよ 簡単にな」

「何が問題なのさ?」

「死ぬって聞かされてもよお

 別に 何の情も湧いてこねえっつうか

 顔も覚えてねえしな」

「恨んでないの? ヤスは」

「ちっせえころは そりゃ恨んでたと思うけどよ

 もう そんな気持ち忘れちまったっつうかよ

  そりゃ もう赤の他人ってことだろ」

「じゃあ やっぱり会ってきたら?」と幸恵。

「ああ?」

「駅前にね」

「何で この一大事に駅前の話が出てくんだよ」

「駅前に知らないおじいさんが倒れてて

 死ぬ前に どうしてもフルーツ牛乳が飲みたい

 て言われたらヤスさん どうすんの?」

「フルーツ牛乳ぐらい買ってやるよ」

「でしょ

 赤の他人でも買ってあげるでしょ」

「けどよ…」

「もうすぐ仏さんになる人に

 恩を売っといて悪いことなんかないって」

「で どこにいんの? お父さん」

「えッ 東京」

「じゃあ ついでに 旭にも会ってくればいいんじゃない?」

「そのついでに会うって考えれば 行けるんじゃない?」

「そうか 旭に会うついでか

 まあ だったら…

 あッ ダメだ

 俺 旭と東京には行かねえって約束してんだったわ

 なるほど

 やっぱり行けねえわ

 どっかのくたばり損ないのじじいのために

 大事な息子との約束破るわけにいかねえもんな

 そうだ そうだ」

「ちょっと本気で言ってんの?」

「おし 筋が通った!

 そうだ そうだこれで スッキリした

 俺 行けねえんだったわ そうだった そうだった」

「素直じゃないねえ」

仕事中の旭。

何かさがしているたえ子。

「あった」

見つけた様子。

ヤスの職場。

「ヤスさん 昨日の話どうするの?」

「何ですか いきなり」

「いや もし 東京行くんなら一緒の切符取ろうかなってさ

 新幹線乗って 駅弁で一杯やろうよ」

「それが 残念ながら 行けないんですよ」

「行けない?」

「ええ 東京には行かない主義なんで

 旭と そう約束したんで」

「じゃあ ヤスさん将来どうするつもりなの?

 旭くん マスコミでしょ

 こっちには帰ってこないでしょう」

「とにかく 約束したんで」

会社へたえ子がやってきました。

「やっちゃーん!」

「何だよ 昼間見ると化け猫みてえだな」

「お昼 一緒に食べない?」

「えッ?」

いっしょにお弁当を食べました。

「なんか味薄くねえか?」

「薄くしてるの 誰かさんの健康のために」

「はいはい ありがたいことですよ」

きのう探していたものを「出しました。

「ねえ やっちゃん。」

「えっ?」

「これ 覚えてない?」

「せっけん箱の舟

 俺が 旭に作ったやつ…

 じゃないよな」

「これは やっちゃんが

 お父さんに作ってもらったやつ」

「いや… ホントかよ」

「小さいころの やっちゃんはね

 これ いつも潮の湯に持ってってね

 お父さんが作ってくれたんだ

 戻ってきたら もっといいの作ってくれるって

 約束したんだって

 私に自慢してねえ

 でもね これがあるとき

 潮の湯の前に落ちてたのよ

 おっきい子にでも取られたのかなと思って
 
 私 とりあえず持って帰ったの

 そしたら うちの母親からね

 やっちゃんのお父さんは

 もう帰ってこないらしいって聞かされて

 やっちゃんが怒って叩きつけたのかと思うと

 返すことも捨てることもできなくなっちゃってね」

「ねえちゃん

 悪いけど 俺 全然…」

「だろうね

 でもね やっちゃん

 やっちゃんは覚えてなくても

 やっちゃんには お父さんのこと

 大好きだった時期があるよ

 待って待って 待ち焦がれてたときがあったよ」

「何が言いてえんだよ」

「別に

  ただ そういうことがあったってこと

 あッ もう一つあった

 小さいやっちゃんに会わせてくれて ありがとう

 あの日は 私の最高の一日だった」

仏壇の美佐子に石鹸箱をみせるヤス。

「これ親父からら 受け継いでたんだとよ

 知らねえうちに

いや〜 怖いね 人間ってのは

 笑ってんじゃねーよ」

ヤスはシフト表をかきかえて提出。

「何 このシフト表何で ヤスさんがいきなり

  東京便の長距離なの?」

「知りません!」

「自分で書いてるでしょう」

「気づいたら そうなってました」


「東京に行くのは あくまで仕事って形に

 したいんだと思います

 旭くんと約束した手前 仕事だから

 しかたねえってスタンスで

行きたいんだと思います」

「相変わらず めんどくさいねえ」

「何十年 大型乗ってないの

 無理に決まってるでしょう」

「責任は取ります!」

「ヤスさんには取れないでしょう」

「こうしときましょうか」

同行者にしてくれました。

「私は 東京に仕事でいきます!」

たえこの店。

「あっくん 1人暮らしだから 旭にビタミンC」

「約束あんだから旭に会うわけねえだろ

 俺は仕事で行くんだよ 仕事!分かるか 仕事」

「うっせえんだよ バカが」と葛原嫁。

「仕事だよ 聞いてんのかよッ」

葛原といっしょにトラックに乗って
旭のつくっている雑誌の星占いコーナーで
息子の星座をチェック。

「ええ 旭は 9月9日…

 乙女座だから…

 おッ いいね!

 やっと運気が回復したね」

息子の星座チェックとかホント親バカ。

「旭くん 結局 そこの出版社に就職したんでしたっけ?」

「おうよ おい クズ お前 何座だ?」

「乙女座っす」

「お前 生意気に旭と一緒かよッ」

「はい」

「かーッ 乙女座はバカか天才しかいないのかねえ」

「ヤスさんは 何座なんですか?」

「3月10日は… えーっと」

たえ子の店。
 
「明日 やっちゃんの誕生日だった」

「何だよ あのバカにも偉そうに そんなもんあったのか」

「まッ いっか 帰ってきてからで」

「なんかしてやんの?」

「タバコ一箱あげるだけ

 小さいころから お菓子あげたりしてたから

ずるずるとね」

「へえ 幸せ者だね ヤスは」

ヤスと葛原はベンチでひとやすみ。

「ヤスさん」

「えッ?」

「国道で 美佐子さん見かけて

 いきなり トラックとめて
 
「結婚してくれ」って言ったってホントっすか?」

「何だよ いきなり」

「いや あの… 話すこともないんで」

「はあ… 常識で考えろ 常識で

 いきなり 結婚してくれって お前

 そんな非常識なやつがどこにいんだよ」

「そりゃそっすよね」

「 「つきあってくれ」って言ったんだよ」

「とめたのは とめたんすか?」

「はあ〜 お前はバカだね

 トラック転がしながら行ったら

通り過ぎちゃうだろうがよ

 常識で考えろ 常識で」

「じゃあ 毎日 毎日 美佐子さんが

 紡績工場から出てくるのを

 花束持って待ってたっつのはホントですか?」

「映画じゃあるまいし誰がすんだよ そんなこと」

「そっすよね〜」

「そんなもん 待ってられるわけねえじゃねえかよ

 中入って渡そうとしたらよ

 守衛とケンカになって通報されてよ

 かってえ守衛だったなあ」

「美佐子さんよく結婚してくれましたね」

「すっとんきょうなところあったからなあ

 おもしろがってたんじゃねえか」

仕事中の旭。

「終わったー

 うん?

 あッ 明日 親父の…」

ぎりぎりまで仕事しているヤス。

「ヤスさん もうそろそろ行ってください」

「俺は仕事で来てんだよ」

「ああ もう十分十分 お仕事されてますから」

「されてるか?」

「ええ」

「じゃあ しょうがねえな」

「ええ

  あッ ちょっとちょっと待っててください

 土産 用意させてもらいました

 こっちは お父さんに

 会社のみんなからです

 こっちは 旭くんにうちの嫁から」

「俺は 旭に会いに行くんじゃねえってんだろが」

お土産を受け取ろうとしないヤス。

「何だよッ」

「うちの嫁も母親しかいないんすよ

 その母親が 家のそばまで来る用事があったのに

 顔も見せてくんなかったら

やりきれねえって 嫁が

 ヤスさんが覚えとかなきゃいけないのは

 くだんない約束じゃなくて

 親一人 子一人って言葉だって 嫁が」


葛原嫁、口は悪いけどほんといい人・・。

「嫁 嫁 嫁 嫁…新聞屋の勧誘じゃあるめえし」

「お願いします 受け取ってください

 渡せなかったらしばき倒すって 嫁が

  ありがとうございます!」

「親だの子だの うるせえんだよどいつもこいつも」

病院にやってきたヤス。

「市川さんですか。」

「はい?」

「島野昭之です」

「ああ… どうも

 島野さんは 母親似なんですか?

 あんまり私とは似てないもんで」

「私は 母の連れ子なんです」

「ああ… そうなんですか」

「ほかに兄弟もいませんから

 父にとって 血のつながった息子は

 市川さんだけなんですよ」

「そりゃあ 島野さんのことを思ってそうしたんでしょう

 いいとこあんですねえ あの人も」

「私のこともですが

 市川さんのこともあったと思います」

「そんなわけないでしょう

 だったら 迎えに来いってね」

「父は ずっと後悔していたと思います」

「いや ホントいいですよ そんな今さら」

「ホントです 母や私の手前表には出しませんでしたけど」

「いや ホントに」

「本当なんです
 
 それだけは信じてやってください」

「じゃあ まあ…」

「ここです」

「えッ もう?

  あーッ ちょっと待った」

「えッ?」

「その… 心の準備が」

「もうちょっと後にしますか?」

「そうですね」

「いや でも…

 そっくりですね

 父も会いたいと言ってみたり

 やっぱりやめると言ってみたり」

「私は そんなに優柔不断な人間ではありませんので」

父の病室に入るヤス。

「薬で眠ってるんで もう少ししたら起きると思いますから」

「ああ… はい」

島野さんはでていきました。

「似てねえな 俺も

 おお こりゃ こりゃ…」

ノートを落としてしまいました。

そこには新聞の切り抜き。
ヤスの誕生日の日付の記事がはってありました。

「 これ 俺の誕生日の…」

旭の星座をチェックしていた自分とかさなるヤス。

「血はあらそえねえな。」

父の顔をみてそばに座り
父に話しかけるヤス。

「小さいころのことは

 あんまり よく覚えてないですけど

 やんちゃばっかりしてたんだと思います

 伯母さんは よく学校に呼び出されてた記憶が

 ちょろっとあって

 よく追ん出されなかったもんだって思います

 同じ並びにたえ子ねえちゃんってのがいてね

 これが まあおせっかいなたちで

 よく面倒みてくれたっちゃあ聞こえがいいけど

 あれやこれや口うるさくてね

 たまったもんじゃなかったですわ

 それから 幼なじみに

 ナマグサっちゅう坊主の息子がいるんですけど

 これが もうわけ分からんやつでね

 俺がやんちゃするのをとめりゃいいのに

 いつも ボケーッと笑って見ててね

 で 結局 そいつのメチャメチャ怖い親父に

 二人まとめてゲンコ食らって

 俺は そうやって育ちましたよ

 あの町で

 大学行ったり

 偉い人にはなれませんでしたけど

 トラックの運転手にはなれましてね

 トラックを乗り回すのは性に合ってて

 あッ トラックに乗ってたから

 美佐子っちゅう女房にも出会いまして

 これが もう明るくて優しくて

 ホント 俺にはもったいねえような女房でね

 それで 息子の旭ってのがね

 これが また 俺にちいとも似てねえ

 出来のいい息子で

 こないだ 東京の大きな出版社にも就職しまして

 とんびがタカを生んだ何だって

 周りのやつらは みんな

 憎たらしい口ばっかりききやがってね

 悪くない47年だと思います

 もし…

 あなたがですね

 あなたが迎えに来てくれれば

 別の人生があったのかもしれませんけど

 それも 悪くなかったかもしれませんけど

 俺 バカだから

 別の人生がいいと思ったことなんかないんです

  ホントにいっぺんもないんです

 あんたがくれた俺の人生は

 何も…

 何も悪いことなかったです」


父の手を握るヤス。
過去の回想。
いっしょにお風呂にはいったことを
思い出しました。

「ヤス 見てろよ ほら」

「ワァ!」

「全部・・ あんたのおかげです。

 あんたが俺をつくってくれたから

 いいこと たくさんありました

 生まれさせてくれて

 ありがとうございます」


帰っていくヤス。

「あ 市川さん。」

「もう 帰りますんで。」

「父は目 覚ましましたか?」

「顔も拝めましたし

 もう 十分ですから」

「そんなこと言わないで 父も謝りたいと言ってましたし

 もう少し待って…」

「別に 謝らなきゃならねえようなこと

 してねえだろ あの人は!

 昔のことなんてね

 どうでもいいんです

 俺は今 満足してるし

 それでいいんです

 島野さんは どうですか?」

「私も そうです」

「じゃあ それでいいじゃねえか」

「そうですね」

「あッ 田舎の土産だ

 あの人も懐かしがって食べてくれんでしょ

 こんぐらいでちょうどいいんだよ」

病院にむかってお辞儀するヤス。

「さてと・・・まあ クズにも悪いしな

 しょうがねえ」

出版社をたずねたヤス。

「ああ 市川旭くんはおりますか?」

「失礼ですが 部署はどちらの?」

雑誌をみせました。

「ああ…これです」

「第2雑誌編集部の市川旭でございますね

 失礼ですが お約束は?」

「お約束はないが 親ですよ」

ヤスは上の階へ。

「あの〜 市川くんのお父さんですか?」

「あッ はい」

「初めまして デスクの小林です

 市川くんのケガのときにお電話した」

「ああ! その節は 息子がお騒がせしまして」

「今 市川くん取材に出てまして

 さっき連絡入れたら できるだけ早く戻るって

 いや〜 喜んでましたよ」

「そうですか」

「とりあえず 市川くんの仕事場でも見ますか?」

「いやいや 私なんぞが皆さんの神聖な仕事場には」

案内してもらいました。

「整理が悪いですなあ

 うちでは ピシッとやるやつだったんですけどねえ」

「ここんとこ忙しいみたいで

 まッ 僕が仕事振りすぎなんですけどね」

「お前か こき使ってんのは」

「頼りになるからつい頼んじゃうんですよね」

「そうですか 頼りになりますか」

「市川くんは あれ何なんですかねえ

 敬語が完璧ってわけではないし

 ゴマすりってわけでもないんですけど

 年上の人や 目上の人にやたら受けがいいんですよ

 人に慣れてんのかもしれませんね」

「あいつは 田舎で 色んな人の手で

 育ててもらいましたから

 あいつに もし そんないいとこがあるとしたら

 みんなのおかげですわ」

「だけど 僕は やっぱり市川くんを育てたのは

 お父さんの手だと思いますけどね」

「何ですか 手ばかりが早い親父だとか言っとるんですか?」

「いや…

 まだ少し時間かかると思いますから

 市川くんの作文でも読まれますか?」

「いやいや 私は ちょっと文字を読むのは…」

「お待たせしました」

「これは どうも」

「これ 市川くんが 就職試験の課題で

 書いたものなんですけど」

「いいんですか? こんなもん読んで」

「ダメです

 だから 秘密にしておいてください 市川くんにも」

「はあ…」

「市川くん バイトしてたから 僕達としては どうしても

 目が甘くなっちゃうなって思ってたんですけど

 そんなこと吹き飛ばすようないい作文でしたよ」

「はあ…」

「じゃあ 市川くんすぐ戻ってくると思うんで」

応接室で旭の作文を読むヤス。

「『嘘と真実について』

 早稲田大学法学部四年 市川旭

 僕には 母がいない。

 僕が3歳のときに事故で亡くなったのだ。

 事故の経緯は小学校を卒業するときに

 父に聞かされた。

 荷物の下敷きになりそうだった父を

 母が身代わりになって救ったのだそうだ。

 僕は それから ずっと

 その言葉を信じて育ってきた。

 本当に 何の疑いもなく。

 それから 8年ほどたったころのことだった。

 大学2年の冬 父の幼なじみで

 僕も赤ん坊のころからかわいがってもらっていた

 照雲さんという和尚に

 一通の手紙をもらった。

 その手紙は 照雲さんの父親

 故・海雲和尚からだった。

 海雲和尚の手紙には

 おそらく まだ父は何も話していないだろうからと

 前置きがあり

 母の死のことが書いてあった。

 海雲和尚の言うとおり

 父は あの小学6年生のとき以来

 母の死については一度も話題に出さなかった。

 やはり 母への贖罪の意識があるのだろうと

 思っていたが そうではなかった。

 母が自分の命と引き換えに救ったのは

 本当は 僕だったのだ。

 父の嘘を許してやってほしいと

 そこには書いてあった。

 お前のためを思って悩んで 悩んで

 悩みぬいた揚げ句ついた嘘なのだ と。」

『あの日 お母さんは

お父さんかばって死んだんだ』

「お前は 母に命を守られ

 父に育てられ

 たくさんの人に助けられて

 成人式を迎えるまで大きくなった。

 それを どうか幸せだと思ってほしい。

 生きて 今あることの幸せを噛みしめ

 これからの長い人生を生きてほしい。

 感謝の心を忘れない大人になってほしい。

 母に 周りの人達に

 そして 何より 父に

 お前を 誰より愛してくれた父に

 いつか
 
 ありがとうと言ってやってほしい。

 手紙を読んで

 涙がとまらなくなったのは

生まれて初めてだった。

 誰に向かってどんな思いで泣いているのか

 自分でも分からなかった。

 ただ 泣いているときふと気づいたことがある。

 鼻をすするとき片方の穴に指でフタをして

 右 左 右 左と交互にすするのは

 父と同じ癖だった。

 そして 自分は もうじき逝く

 と 和尚は書いていた。

 美佐子さんに僕の母に会えたら
 
 お前が 文武両道

 立派に育っていることを伝えてやると

 和尚は書いていた。

 美佐子さんはきっと喜ぶだろう と。

 それから最後の最後に こうあった。

 だが 美佐子さんが一番 うれしく思うのは

 お前が父の偽りの告白を聞いた後も

 一度たりとも 父を恨まずに

 いてくれたことだろう と。

 僕は 和尚の手紙を読んで初めて気づいた。

 僕は 確かに 母が父をかばって

 死んだのだと思い込んでいた。

 だが 本当に ただの一度も

 「父のせいだ」とは思わなかったのだ。

 父を恨むことは本当に一度もなかった。
 
 我慢していたのではなく

 そんな思いは一切 湧いてこなかったのだ。

 そのことが 僕はうれしい。

 僕自身ではなく

 僕に恨みを抱かせなかった父を

 誇りに思う。

 父は 嘘をついた。

 僕は 二十歳になって事実を知った。

 だけど それが

 それが一体何だというのだろう?

 大切な真実というものは

 父と過ごしてきた日々に

あるのではないだろうか」


屋上にいって泣いているヤス。

会社に急ぐ旭。

「えっ?親父帰っちゃったですか?」

「うん これ。」

仕事できているので帰ります、というメモ。

「まったく 会わずに帰るかな 普通」

「ごめんね」

「何で 小林さんが謝るんですか?」

「僕の接待が悪かったかなと思ってさ

 で 何それ?」

「あッ 親父の誕生日だったんで」

たばこ1カートン。

ヤスは葛原のところへ。

「おい クズ これも積むのか?」

「はい あーッ ヤスさん!えッ もう帰るんすか?

 やめてくださいよ

 ぎっくり腰とかになられても困るんで」

「バカにすんな」

「あの… お父さんには会ったんですか?」

「会った

 と思う」

「旭くんには会ったんすか?」

「会った

 ようなもんだ」

「ようなもんって?」

「クズよお」

「はい」

「あいつ

 やっぱ 天才だわ

 俺が今日 やっと分かったことを

 20年かそこらで分かってやがった」

「はあ…」

「おし じゃあ帰るぞ!」

旭は父のプレゼントを宅配便でおくることに。

現在。

「俺の親父は バカなんです。

 筋金入りの親バカなんです

 坂本さんは 俺の親父のバカをバカにしてます

 俺のためなら

 自分が母親を殺したって言う人なんです

 俺が結婚したいっていう人が

 7つ上だとか 子供がいるとか
 
 その程度のことを気にする人間じゃないんです」

「だけど 私なんかさ…」

「なんかってどこがなんかなんですか?

 坂本さんはずっと頑張ってきたんでしょ

 大体 そんな言い方

 健介がかわいそうだと思わないんですか」

「えッ?」

「母親が 私なんかって

 健介の母親は 私なんかって

  言わなきゃならないような人なんですか?

 健介は 母親のことをそんなふうに思わなきゃ…」

「しかたないでしょ!分かんないんだから

 私さ いくら考えても全然 分かんないのよね

 お互い すねに傷持つ身とかなら ともかく

 市川くんさ ピカピカじゃない」

「ピ ピカピカ?」

「今は まだよくても 市川くんが

 今の私の年になったとき

 私 もう40だよ

 市川くんが 仕事とか色々脂が乗り出すころ

 私 もう 下り坂のおばさんだよ
 
 そんとき後悔しないって言い切れる? 私は…

 私は 要するに自信がないの!

 めんどくさいでしょ  いい年して」

「長いですよ」

「えッ?」

「僕の話 長いですから覚悟して聞いてください

  僕が初めて坂本さんと出会ったのは

  僕が19のとき 焼き鳥屋です

 昔 「どんこ」って焼き鳥屋に取材しに来たでしょ

  坂本さん

 あのとき 僕 あそこでバイトしてたんです」

「えッ?」


「けえってくれ!」

 う〜ん じゃあ ねぎまください」


「それから 毎日 毎日 通ってきて

 何だかんだでおやじさん 口説き落として

 その記事見た人達が店に押しかけてくるようになって

 俺 将来 こういう仕事したいなって思ったんです

 その後 「シティ・ビート」にバイトで潜り込めたんですけど
 
 そのとき もう坂本さん異動してて

 実は 飲み会で一緒になったこともあったんですけどね

 坂本さん コロコロ場所変えてて

 最初は なんか落ち着かない人だなと思ったんですけど

 よく見ると 必ず盛り上がってない人の隣に座って

 話しかけてたんですよね

 優しい人なんだなって思ったの覚えてます

 それから 離婚して

 引っ越してきた坂本さん駅で見かけるようになって

 知り合いでもなかったし

 何となく声かけにくかったんですけど」

ひとりで怒って空缶を踏みつぶしているいる坂本さん。

「ふざけんじゃないわよ!

 あんたが それでいいって言ったんじゃない!」

「坂本さんが ものすごい顔して

 空き缶に八つ当たりしてて

 しかも その後 ちゃんと空き缶拾って元に戻すってのが

 なんか ものすごく身近に感じてしまったんです」

「しまった?」

「しまったんです

 不覚にも そういうことになっちゃったんです

 健介のことを手伝うようになってからは

 何もかもが新鮮でした

 坂本さんは色々 とっちらかってて

 いい年して 照れ屋でめんどくさくて

 でも…

 僕は 坂本さんに憧れをもらいました

 落ち込んでるときそばにいてほしいと思いました

 心配で こんな人

 一人じゃほっとけないと思ってます

 そんな人

 僕には ほかにいないんです
 
 だから もう絶対 「私なんか」って言わないでください」

「長いよ」

「言ったじゃないですか」

「編集者なら

 もっとうまくまとめなさいよ」

「まとめると…

 まあ結婚してくださいってことです」

平成10年 冬

まだすぐ電話に出ないヤス・・w

「1 2 はい 市川です」

「あッ 旭ですけど」

「どうしたんだよ 今日は 改まって」

「あの…

 会ってほしい人がいるんだけど」

「ええッ!?」



旭の作文で涙涙。
まわりの人たちがみんないい人ばっかりで
旭がこんなにまっすぐないい子(大人)に
育たないわけがない。
和尚、死んでからも泣かせてくれる。

ヤスも素直に父親にも息子にも
あいにいこうとせずホントに面倒だけど
お父さんに語りかける言葉をきいていたら
ヤスも両親はいなくても
まわりの人に恵まれていたんだなというのが
よくわかる。

旭のあの作文は何よりも嬉しい
誕生日プレゼントになったはず。

予告では坂本さんのことが
驚かれていたようだけど・・
旭の信頼を裏切らないでほしいな。




市川安男…内野聖陽
市川旭…佐藤健
坂本由美…吹石一恵
幸恵ゆきえ…加藤貴子
市川美佐子…常盤貴子
照雲…野村宏伸
たえ子…麻生祐未
海雲…柄本明











2013.03.03 Sunday 23:04 | comments(0) | trackbacks(10) | 
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とんび 第8話:父と息子の遺言状
和尚ったら・・・・゚・(ノД`;)・゚・ウワァーン!! 20歳を迎えるアキラに、あげな手紙をしたためてたとは・・・ そして、それと重ね合わすように披露された、アキラが就職試験の際に書いた作文とで ダブルで泣かされた〜〜〜!!! さすが、和尚!ヤスが美佐子の死の
| あるがまま・・・ | 2013/03/03 11:17 PM |
とんび #08
『父と息子の遺言状』
| ぐ〜たらにっき | 2013/03/03 11:39 PM |
「とんび」父と子の愛情8ヤスは父親との再会で愛されていた事を知りアキラは由美との結婚のためにヤスに会う決心を固めた
「とんび」第8話はヤスの父親が生きていた事を知り、ヤスはアキラと交わした事で上京する事を拒否していた。しかしどうしてもという事になりヤスは東京へ仕事で強引に行く事にし ...
| オールマイティにコメンテート | 2013/03/04 12:20 AM |
【とんび】第8話 感想
子供は、二十歳も過ぎると、もう自分のことを一人前だと思い出す。 だけど、親にしてみたら、まだまだ子供だとしか思えない。 親子には必ず そんな季節がやってくる…。 とんび 第8話    「...
| ドラマ@見取り八段・実0段 | 2013/03/04 12:46 AM |
ドラマ「とんび」 第8話 あらすじ感想「...
「俺の親父はバカなんです。筋金入りの親バカなんです。坂本さんは、俺の親父のバカを、バカにしてます」今回も泣かせてくれたよ(><)和尚め!!いなくなってからもやってくれる...
| ◆◇黒衣の貴婦人の徒然日記◇◆ | 2013/03/04 12:34 PM |
ドラマ「とんび」 第8話 あらすじ感想「父と息子の遺言状」
「俺の親父はバカなんです。 筋金入りの親バカなんです。 坂本さんは、俺の親父のバカを、バカにしてます」 今回も泣かせてくれたよ(><) 和尚め!! いなくなってからもやってくれる。 そして旭が本当に素直にまっすぐに育ったのは、やっぱりヤスの愛情のお
| ★☆TB黒衣の貴婦人の徒然日記☆★ | 2013/03/04 12:34 PM |
とんび ・第8話
とんび 第8話。 ヤスの父親の経緯をジャガイモを使って説明する、 たえ子おばさん(笑) 皆さん、順調に老けてきてますね。 ヤ...
| めざせ生活向上! | 2013/03/04 2:50 PM |
とんび 第8話
ヤス(内野聖陽)が仕事をしていると、突然の電話が掛かって来ます。 相手は、ヤスの父親の息子と名乗る島野(内倉憲二)からでした。 「父親が会って詫びたいと言っているので、東京に来て頂けないです...
| ぷち丸くんの日常日記 | 2013/03/04 3:02 PM |
日曜劇場 「とんび」 第8話
「まとめると・・・まぁ・・結婚してくださいってことです」  おめでとう。旭! そして、来週は婚約者を連れて故郷に凱旋かい?  でもっ、予告を見ると、また私を不安にさせ ...
| トリ猫家族 | 2013/03/04 4:20 PM |
《とんび》☆08
旭は、真剣に坂本由美と結婚したかった。だが、年上でコブ付き。将来を考えると、とても暗くなる坂本は、どんどん旭を避けるようになった。 坂本の母がマンションに来ているのを知っていて乗り込んだ旭。袱紗に包まれた旭が一番大事にしている手紙を坂本に差し出し、読
| まぁ、お茶でも | 2013/03/05 10:18 PM |